リアルとデジタルを行き来する実況・解説の仕事

  • 佐山裕亮・高田保則
  • 共通する世界 新たに広がった世界

  • 群馬のサッカーシーンでお馴染みの、ザスパクサツ群馬スタジアムDJで実況者の佐山裕亮さんと、元ザスパクサツ群馬選手で解説者としても活躍する高田保則さん。国体の文化プログラムにもサッカーゲームが採用され、今、活躍の場をeスポーツの世界に広げています。リアルとサッカーは融合するのか。実況・解説の立場から語ります。

リアルのスポーツシーンで活躍してきたお二人とeスポーツとの関係は?

実況の佐山裕亮さん

佐山 eスポーツの実況は最近やり始めたばかりです。これまで経験してきたスポーツの実況とは違うことがすごく多いので、勉強しながら挑んでいます。

 

高田 僕も2019年に前橋市内であった国体(文化プログラム)予選の解説を担当させてもらったのがeスポーツに触れるきっかけでした。実況の方とプロのeスポーツ選手の方、そして自分が元サッカー選手として解説をするという布陣。そこからeスポーツとの接点が増えてきましたね。翌年の全国都道府県対抗eスポーツ選手権群馬県代表決定戦でも解説させていただいてます。

佐山 リアルの実況って、スタジアムの雰囲気・天候・気温など五感を伝えることが大事なんですよ。観客一人ひとりの様子もよくチェックして伝えています。ところがeスポーツの場合は、気温ではなく室温だったり、屋内競技のため天候がほぼ関係なかったりします。いつもと違う脳みそを使わなければいけませんが、その分見方も伝え方も変わってくるので毎回新鮮さを味わっています。

高田 それに海外勢のチーム名とか選手名とか、見ているだけでも読むのが難しそうですよね(笑)。

佐山 eスポーツの実況だと、僕が口にする選手名も一気に世界レベルまで広がりますからね! しかも、Jリーグなどでは事前に出場選手や登録選手が大体分かりますが、eスポーツの場合はその日に決まることがほとんどです。  
 それに加えて、これまで経験してきたプロスポーツでは「試合の展開がこうなりそう」「この人にボールが集まりそう」「どっちのほうが有利か」「点差は僅差か大差か」といったことを、予想サイトや新聞紙面などである程度イメージして臨むことができましたが、それも適いません(笑)。

高田 eスポーツでは当日にならないと対戦カードが分からないことが多いので事前にできることも限られてはくるのですが、たとえeスポーツでも動かしているのは人間。人のことをしっかり見るよう意識しています。すると、「攻撃的だな」「いま守りに入ったな」というちょっとした変化や特徴が見つけやすくなりおもしろいです。

eスポーツに触れて感じることはありますか?

解説の高田保則さん

佐山 僕らが子どもの頃にやっていたゲームとは全然違います。今は映像もすごくて、パブリックビューイングを見ている感覚に近いですよ。試合はもちろんですけど、実況という仕事柄、スタジアムが湧いている様子なども伝えるので観客にも目がいくんですが、応援歌を歌ってる人や喜んでいる人、イエローカードに対して怒ってる人など細かいところまで再現されているんです。ゲーム自体もリアルにものすごく近づいていますよね。

高田 複数人でプレーする時、人のズレ、パスのズレまでリアルに近いものがあると感じます。ズレがあるからこそ「息があった!」となるわけで。それと、ドリブルでうまく操作できないと引っかかる感じがあるんですけれど、これもまさにリアルと同じようなミスの感覚。これが画面上でも起きるんですよ。いや、プログラミングした人、本当にすごいですよね。ゲームのクリエイターにYouTuber。子どもや人々をあれだけ夢中にさせるものを作っている開発者の熱意は相当なものですよ。

プロスポーツの選手もゲームを使ってトレーニングすることがあると聞きますが…!

実況の手助けをする佐山さんのノートにはメモがびっしり

佐山 レーシングドライバーの方からは、ゲーム上で実際のコースを試走していると聞いたことがあります。いわゆるGや空気感は感じられないけれど、イメージトレーニングに活用しているそうです。リアルのスポーツになると怪我をする可能性が出てくるので、度胸という意味では違うところはあるかもしれませんが。

高田 僕が現役だった頃を思い出すと、時間のあるときは選手同士でウイイレ大会をやっていました。バッグにゲーム機を入れて合宿所に持ち込んで(笑)。理想のプレーを実現できますし、実際の試合にも活かせる学びが結構ありますからね。

「プロになる」とはどういうことだと思いますか?

子どもたちのさまざまな夢を応援したいと語る高田さん

高田 Jリーグが誕生したのは、僕が中学2年の時。プロになりたいという思いはその頃に持ちました。当時所属していたサッカーチームは日本一になるような強いチームだったのですが、僕は試合になかなか出られず…。そこから、じゃあプロになるために自分はどうするのかと考え始めました。どこまで本気なのか。これほどの努力をこの先ずっと続けられるのかと自分に問い、その上で行動し続けました。これはeスポーツも一緒ですよね。壁に当たったらすぐ辞めちゃう程度じゃなくて、プロを目指すならそのくらいの覚悟を持って欲しいと思います。

佐山 たしかにプロになれるのはほんの一握り。選手以外にもどういう関わり方ができるのか考えてみるのも一つの手かもしれませんね。実は僕、プロレーサーを目指していたんです。でも、コース取りもテクニックも天才的な年下の選手が出てきて、まったくかなわなかった。その後、モータースポーツに実況として関わる道を選んだんですけれど、今、彼が走るレースを僕が実況することもあります。スポーツの世界はプロだけでなく、実況や解説、スタジアムDJもいるし、試合の運営に携わるフロントスタッフや、魅力を伝えるメディア、営業など、たくさんのプロがいます。リアルの関わり方が、eスポーツという世界に広がっていると感じます。この先、チャンスもどんどん広がるでしょうね。

ファンも喜ぶ、二人の思い入れある品の数々

高田 eスポーツの解説という仕事。僕にとっては新たなチャレンジでした。不安はあったけれど、楽しみの方が大きかったんですよね。ぜひみなさんにも、eスポーツというチャレンジの機会を自分のものにしてもらえたらと思います。一緒に頑張りましょう!

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